レポートの形式と要件
前に「自由研究という課題」でプレゼンテーションには指定された形が求められる事を書いたが、この形式を踏むということについては、もう一つ別の経験がある。同じく小学校3年の息子が出されたミッションをレポートする宿題である。カリフォルニアに最初に入った白人は、カトリック宣教師のミッションであった。彼らスペイン人は、メキシコ側から入って北へ北へと陸路、水路を使って探検していき、サンフランシスコ、オレゴンあたりまで次々とミッション村を作っていった。彼らは、インディアンにキリスト教を布教するとともに新しい文明の道具を教え、作物・家畜を交換し共存していた。アメリカの小学校で教える歴史の教科書では、インディアンが平和に暮らしていた時代のすぐ後、第二章にあたる時代である。このカリフォルニア中に点在するミッション村のどれかを選びレポートするのが宿題である。カリフォルニアの小学校では小生の知る限り、大方同じようなことをやっているらしく、まぁ、郷土史というところでポピュラーな課題である。
私が驚いたのは、そのレポートのための要項書である。後ろに、要項書の翻訳を載せるのでご覧いただきたい。名づけて、「mission possible 97」、あのmission impossibleをもじったものであろう。気がきいているではないか!(97は単に97年の課題という意味)おそろしく細かに何を書くべきか、どういう構成にすべきか、どういう材料をそろえどのような体裁を作るか指定してある。小学生のレポートにどうしてここまでどころではない。こんな事細かな指定のあるレポートを求められたことは、私の経験ではない。やはり、思想的に違うものがあるからこうなるのだろうと思う。私が注意をひかれたのは、次の点である。
- 事細かに多方面にわたる調査を求めている。創設の経緯、平面図、立面図、写真、模型、穀物、家畜、等々あらゆる角度からの検討を要求している。そのために参考文献2種以上などと指示している。調査というのは多方面から行うものだということをたたきこもうとしている。
- 構成を求めている。アウトラインを見ていただきたい。T〜Xという表題の下にA〜Dがあり、1〜2・…と筋立て、創設の経緯、建物、生活、・・・・…生産物、閉鎖と紹介していく。この形式を踏んでこそレポートが成り立つということを教えている。発表の時なども、introduction、body、conclusionの形式を踏むことには、けっこううるさいのである。
- どのように採点されるのか生徒に示している。何をしたら点数があがるのかかなり明らかである。この例でも模型はオプションとなっている。でも作れば点をくれるなら、まぁ、作っておくかということになるわけである。
- 参考文献の記述をおこなう。日本では、私は大学で初めて参考文献をつけることを学んだ。アメリカでは参考文献の記述形式までしっかり決められているのを留学した時に知ったが、まさか小学校で教えているとは思いもよらなかった。レポートにおける自分の意見と引用との峻別はかなり厳しくいわれるようだ。
ここで思うのは、アメリカのやり方というのは、自由な発想、方法を強調しているのは間違いないが、一定の形式、思考プロセスを辿る訓練は通常の教育の中にしっかりビルトインされている事を見直すべきではないかという事である。自由な発想、創造性を強調して「ゆとり教育」にいってしまったが、つめこみ教育の行き過ぎがまずい一方、緩めただけでは何も生まれてこない。日本の創造性教育が成果を発揮しないのは、けっこうこのあたりが不足しているのかもしれない。新しいものを生み出すには、既存の学問とその成果を習得することは絶対必要である。それを、どう教えるかという方法論の検討が十分になされているとは言いがたい。
要項書
MISSION: POSSIBLE
次のチェックリストを使ってミッションのレポートを完成させなさい。
- カラフルな表紙 (10ポイント)
- ミッション名とあなたの名前が入ったタイトル・ページ
(5ポイント)
- あなたの選んだミッションについて、別紙Aのアウトラインに従って書いたレポート文書。(40ポイント)別紙Aへ
- カリフォルニア州の地図にあなたの選んだミッションを適切なシンボルで示す。別紙Bを参照。(10ポイント)
- あなたの選んだミッションの平面図。別紙D参照。(10ポイント)
- あなたの選んだミッションの絵(15ポイント)
- 参照文献。2文献以上を使用すること。別紙Cの様式で書くこと。(10ポイント)別紙Cへ
レポートはCURSIVE(草書体)で書くかコンピューターでタイプにすること。あなたの選んだミッションの写真やパンフレットなど何でも好きなものを追加して特別なボーナスポイントをえることができます。(10ポイント)
レポートは綺麗さ(NEATNESS)、構成(ORGANIZATION)、スペル、内容で採点されます。
□ 両親が、最初の原稿校正読みを終えた時点でチェックのこと
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ミッションの模型
ミッションの模型は選択可能。あなたの創造性を発揮して、どんな材料でも使ってミッションの模型を作ってみてください。必要用件は机における大きさに留めること。(23X17インチ)
別紙A
名前______________
MISSION POSSIBLE ’97_
アウトライン
あなたの使用したノートやメモから、このアウトラインに情報を記入しなさい。次に、このアウトラインに従ってあなたのレポートを書き上げなさい。
- 創設(何処で、何時、誰が、何故)
- _________________________
- _________________________
- _________________________
- _________________________
- 建物(どんな材料が使われているか、だれが設計したのか、どんな構造物があるのか、即ち教会・鐘楼等)
- _________________________
- _________________________
- _________________________
- _________________________
- ミッションの生活
- どんなふうに人々は暮らしていたか
- 牧師(彼等の仕事や衣服などについて)
- _________________________
- _________________________
- _________________________
- インディアン(彼等の仕事、一日のスケジュール、彼等がミッションでの生活をどう感じていたか等々)
- _________________________
- _________________________
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- その他の活動(学校、休日、音楽、等々)
- _________________________
- _________________________
- _________________________
- 穀物及び生産物(どんな食料が生産されていたか、どんな家畜が育てられていたか、他の生産物、例えば陶器など)
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- _________________________
- _________________________
- _________________________
- ミッションの閉鎖(何時、見捨てられたり、売られたり、放棄されたりしたのか、他の用途に使われたり、再現されたりしたのか)
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- _________________________
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本文へ
別紙C
参照文献の記述形式
形式
著者の姓.名 (出版年)
書籍名
出版社の所在地と出版社名
記述例
Anema. Duriynn C (1984)
California Yestreday and Today
Morristown. N.J. Silver Buedent Co.
注意事項
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- 本のタイトルは大文字で始めて、アンダーラインをつけること。
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- 著者名のアルファベット順で並べること。
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