20019

米国のテロと危機管理

 

 米国における同時多発テロの中で報道されてはいるが、あまり議論されていない事実がある。ペンシルバニアで墜落した旅客機には、大統領命令で状況により撃墜の指令が出ていたとの報道がなされている。しかし、この旅客機は空軍機に撃墜されたのでなく、乗客が抵抗して墜落したようだということになっている。ハイジャックされた他の旅客機が、貿易センタービルにつっこんだことを知り、乗客もこの犯人とは戦う決意をせざるをえなかったのだろう。乗客たちの英雄的行為がもう一つの自爆テロを未然に防いだとたたえられているが、ここで焦点をあてたいのは状況により撃墜の大統領命令がでていたということである。

 

 旅客機をミサイル化する自爆テロが起こったと聞いた時、まず思ったのはこれに対処するのは大変なことだなということである。いったい撃墜せよという命令をどの時点で出せるのだろうか? ハイジャックされたことが分ったとしても何を目論んでいるのか宣言でもしてくれない限りその目的はわからない。仮に分ったとしても、打ち落とせば乗客は死ぬのである。そして、落下するのが都会に近いほど、落下地点の住人にも甚大な被害が出る。しかし、放っておけば国の中枢機能や大都会や繁華街につっこむかも知れない。結局、ハイジャックされたことが分った時点から、何時でも撃ち落せる体制を組むしかないことになる。一定以上の警告を発し、これに従わねば撃墜という指示が出ていなければなるまい。アメリカでいえば大統領の指令が出されていたということである。一度その命令が出されれば、パイロットは所定の手続き踏んで撃ち落すまでの判断を任されるこになるだろう。

 

 翻って今の日本政府にこんな決定ができるのか? ハイジャッカーは国外に飛び立つのかもしれない、国会議事堂に突っ込むかもしれない、米軍基地に突っ込むかもしれないと協議しているうちに、都庁ビルに突っ込んだということになりかねない気がする。自衛隊が米軍基地を守るなどというバカな議論をする前に自衛隊戦闘機が旅客機を撃墜するような事態にまで想いを馳せる必要がある。(まさか、自衛隊員を基地フェンスの周りに配備することなど考えているわけではないだろうと思うのだが)また、米軍の側にはハイジャックされた旅客機が基地に向かうことを確認すれば撃墜せよの指令が出ているかもしれないのである。したがって、在留米軍の戦闘機かミサイルがさっさとハイジャックされた旅客機を撃ち落したということもおこりかねないのである。日本は、米軍に基地を提供しているのであり、米軍には米軍の自衛の権利がある。(少なくとも米国はそう言うだろう)ハイジャック発生時にどんな指揮系統で動くのだろうか? そして、米軍基地以外のところに向かっていることが判った時には、自衛隊機が撃ち落さざるをえないのである。

 

 それは誰が決断するのか?仮に、国の最高責任者(大統領/首相?)だとして、タイミングはどうか?短時間の決断を迫られるとしたら第一責任者不在の場合の第二責任者も決めておかねばならない。また、テロされたか、不信行動をとっているか(即ち、旅客機のミサイル化等を行おうとしているのか)という判定を行う手続きを決めておく必要がある。手続きが決めてなければ責任者に相談する前に突っ込んだということになりかねない。また、本当の緊急事態とみなされ、責任者の決断を待つ時間もないようなケースでは現場の判断という想定も入れた手続きを作成する必要があるだろう。実際におこった危機を参考にして、例えば成田空港とテロ目標を首相官邸/丸の内とでも読み替えて対応のシュミレーションを行い危機管理の体制を整える必要がある。従来のテロであれば乗客の安全だけを考えればよかったが、今度のようなテロでは相手が望めば日本中どこでも落とせるのである。一度ハイジャックされてしまえば対応は極めて難しい。しかし、難しいからこそ先に対応を考えておかねばならない。

 

さらに言えば、このような場面の指揮者は素早い決断を迫られるし重大な責任を負う。速やかな事態への対処を考えれば、リーダーの責任と権限は非常に重くなっていかざるを得ない。権限を与えれば与えるほど独裁者の出現やクーデターの可能性には気を付けねばならない。事前に対応を考えてあることにより、リーダーの決断に筋道を与えたり、リーダーの決断に対する過重な精神的苦悩からも救う事が出来る一方で、リーダーや軍事機構からの反乱という危険にも備えることができる。

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