請求書と社会保険の革新

 

色々な会社が従来型の紙請求書の発行を止め、ユーザーが自分でネットを通した画面で自分の請求額をチェックし、クレジットカードか口座振替による自動引き落としを要求するようになっている。主目的はコスト削減であり、今まで通り紙の請求書を必要とするなら特別チャージを科すというのだからほとんど強制みたいなものだ。私の知っている範囲では、NTTコミュニケーションがインターネット・サービス・プロバイダーとして請求書を発行するのに、105円の特別チャージを、長距離電話キャリアーのフュージョンが一月の請求額が300円以下なら315円のチャージを取るという。ネットを通じて顧客に処理させれば、ずっと安上がりに処理できるのだから仕方あるまい。これから、あらゆる公共サービス的なものの処理は、この方式に移っていくだろうと思われる。経済合理性がそこにある以上、もう流れ出した動きは止まらないだろう。

 

一方で、社会保険庁が年金特別便なるものを郵送して、これまでの納付額、支給額などの通知をして数字の確認などをしようとしている。しかし、このような書類の処理コストは非常に大きなものである。例えば、宙に浮いたと言われた年金データは5000万件である。この数を相手に郵便物を送ったら、一通80円の切手代がかかり40憶円というような規模の数字になる。規模による割引があるにしても、印刷代もあれば、人件費もある。さらに、毎年の控除金額を本人にチェックさせたり支給予定額を知らせたりしていく必要があるから、特別便でなく年金定期便というものも企画されており、このコストはずっと続くコストなのである。大幅なコストダウンを図るには、企業がやっているのと同様にユーザーにあたる年金受給者もしくは将来受給者に自分でアクセスしてチェックさせることである。つまり、ネット照会が基本で、郵便による照会の方が例外として限定されていく手段を講じていくべきなのだろう。

 

実は、社会保険庁のホームページを通じて過去のすべての給与額などのネット照会がすでに可能になっているそうである。(日本経済新聞2008725日 経済教室 高山憲之 一橋大学教授)著者がトライしたところ、まずはホームページを通じて送られたデータで本人確認をし、ユーザーIDとパスワードを送ってくることによりアクセス可能になる仕掛けである。しかし、なんとこのプロセスで私の登録されている住所が現住所と異なっておりユーザーIDとパスワードを送れませんという返事が返ってきた。私の場合は厚生年金であり、手帳さえも会社が管理しているわけであるが、会社は緊急時連絡先のメンテナンスや源泉徴収用の目的で現住所の管理を定期的に行っている。つまり、会社が所有しているデータベース上の私の個人住所が正しいことは何度も確認させられているのである。それにもかかわらず、厚生年金への届け出住所はなぜかあっていなかったわけである。会社が訂正を申し入れるから、社会保険庁のデータが直るであろう一月後くらいに、また申し込んでみてくださいという結果になった。(社会保険庁混んでいますからということであった)会社が悪いのか、社会保険庁が悪いのか判定しようがないが、年金のデータベース上で私の登録住所がまちがっていることだけは確かである。そして、年金特別便も年金定期便もつくはずがない状態になっているのであり、それを自分で確認する術を与えられていない。

 

年金の現在の色々なデータ不備や問題を解決していくには、2点ある。第一は、米国のsocial security numberに相当する統一IDを利用していくことである。これにより、税金と社会保険料の徴収をアメリカのように統一的に行っていく。さらにアメリカを超えて、医療の分野にも同じ仕組みを適用し、同じ個人IDのもとに診療データや処方箋データを利用できるように変えていくべきだろう。第二は、ネット照会網の充実である。年金のようなものは請求書の確認と同様で、本人による確認が必要なのである。これを国民全員が自ら行うのが理想の姿なのであろう。それを郵送による紙の特別便・定期便でやっていたのでは、税金がいくらあってもたりない。社会保険庁を非難するのは良いが、早く早くと叫び続けて、緊急電話要員を使い、残業をさせて、伝統的紙メールを使っていては金がかかるばかりである。民間のIT利用はどんどん進んでいる。しかし、民間だけ勝手・独自には進めない。世の中を革新していくには、官も民も工夫を重ねて新しいやり方を生みだしていかなければならない。

              (金井章男 200810月)
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