できそこないの電子振替システム

 

 いつからか日本は電子振替を当たり前に使うようになった。給与振り込みや公共料金の引き落としなど便利になってきたなと思っていたのだが、企業の一般支払いにこれを使ってみると、とんでもないできそこないのシステムだと思う。

 

 実は日本がこの電子振替では突出して使用しているのだと思う。驚くことに、アメリカでは小切手(check)が、企業でも家庭でも主な支払手段である。アメリカの小切手(check)と日本の小切手とは機能的な意味合いが違うので、アメリカの小切手(check)を意味する時には以下“check”と表記することにする。銀行に口座を開けば、個人でもすぐにcheckが使えるようになり、色々な請求に対してこのcheckを郵送することにより支払いを行う。公共料金の引き落としなど聞いたことがないし、クレジットカードの支払にしてもcheckを郵送して支払っている。アメリカ人の気質からして自動的に自分の口座から金が引き落とされるなぞ、到底うけいれられないだろう。Checkを受領した相手が自分の口座がある銀行に持ち込み、この銀行がcheck発行者の銀行に対して銀行システムを通じて取り立てを行うことにより決済される。決済されたcheckの現物が発行者に戻され、領収書代わりとなるという仕掛けになっている。毎月一回、銀行口座明細書(Bank statement)と一緒にその月に決済されたcheckが同封され郵送されてくるのである。(現在は、この現物のcheckを戻すことは効率が悪すぎると、スキャンしたイメージコピーを郵送する方式に変更しつつある。これは、銀行での決済の過程でcheckの自動データ読み取りが行われているので、そのデータを現物代わりに郵送することにしたものであるが、checkシステムそのもの仕組みを大幅に変えるようなことではない。)私は、日本が後発国であるがゆえに、現金→checkシステム→電子振替という進化の過程をすっとばして一気に次段階である電子振替というシステムにいったのだというような印象をもっていた。それは今の開発途上国が固定電話という時代を飛ばして携帯電話にいくようなもので、けっこうなことだと思っていた。だが改めて、企業間の支払いシステムとして見た時には欠陥だらけのできそこないのように思える。

 

 checkにあって電子振替にない機能は、明細を伝える機能である。通常、企業が発行するcheckは個人のものとは違って、以下のように表・裏の2部分あってこれを折ると、窓付き封筒に住所部分が見えるようにできていて郵送されるようになっている。例えば以下のようなものである。

 

<表>

支払先宛名 *** ***
(この宛名・住所と封筒の窓とあわせておく)
支払人住所 ***
金額        400,000
発行人サイン欄(ここにサインする)
発行人名称(ロゴも含め印刷)

 

<裏>

支払先請求番号 メモ 請求額
a-1 270,000
a-2 150,000
a-3 -20,000
合計 400,000

この裏の明細部分(通常stubと呼ばれる)が一緒に郵送されるので、受取企業は400,000の受け取り内容がわかるのである。a-1a-2という請求書と、a-3というクレジットを合わせて400,000という支払ですという情報が受取人に渡されることになる。受取人は請求をだしたものが本当に入金されているか、未入金の請求書はどれなのかを常につかんでいる必要があるが、この明細部分に請求書の番号の情報がわかるのでこの照合作業がきわめて簡単なのである。支払い側も、請求書を受領して支払が承認される都度、伝票が作られ支払先名、その請求書NOなどが同時に入力されている仕組みになっているので、別途に通知用のデータとして特別に入力しなくても支払先に明細部分のデータがcheckが郵送されていくことにより一貫した処理になっていて無理がない。

 

逆に、現在の電子振替の場合には、この明細部分の情報を伝えるしくみがない。上の例でいえば、表側の400,000支払いますという情報しか伝わっていかないわけである。結果として、支払金の受取先からこの支払の明細を教えてくれという電話がかかってくることになるので、小生の所属する会社ではこの明細にあたる支払通知なるものを作って渡している。以前は、明細データをプリントして郵送していたが、人手と切手代もばかにならないので、データを転送するとまとめてFAXに変換して送ってくれるサービスを使うことに切り替えた。小生の調査では、この明細をWEBページにあげている会社もあった。更に、このような電子振替という支払を受け取る企業側でも問題がある。せっかく電子データで銀行から取引明細データをもらっているのだが、請求書NOなどのデータがこないから請求書データと単純な自動照合をするというわけにいかないのである。(仮に総ての企業が支払金通知を送ってきたところで、それは支払い企業ごとのバラバラの状態でしか存在しない。)私のところでは、請求書データと入金データを、入金予定日、相手先名、合計金額などで半自動の照合する仕掛けを作っている。システム作成の必要性は、請求の細かさと、取扱量によって必要度が企業によっても異なると思うが、同じ悩みを抱える企業はめずらしくない。支払通知と入金照合という仕掛けを各企業が作っているという愚は、もしcheckという決済システムを使っていれば社会全体として不要なのである。

 

結局のところ、アメリカではcheckを一般支払いに使い、給与振込など明細を渡すものについては振込を使っているし、大きな資金送金にも電子振り込みを使っているようだが、特徴に合わせて使い分けているというのが実態ではないだろうか。しかしながら、いまさらcheckが便利といっても、日本がcheckシステムを取り入れるのも高いものにつくだろう。小生は、電子振替にこの明細をつけて渡す仕組みに変えるのが向かうべき方向だろうと思う。企業が支払いをする時には、前述したように請求書の入力から始めるからcheckの裏にあたる明細データをどうせ入力して持っている。銀行に振替え依頼をする時に総合振り込みデータの形式に合わせて、支払だけのデータにして送信しているだけのことである。銀行の決済システム全体として、この明細データも同時に受領して一緒に渡すような仕組みに変えることにより、各企業単位で作っている2つの仕掛けを作らなくてよくなるから、社会全体としてのコストが抑えられることになるものと思われる。銀行の決済システムはグローバルに標準化されているのだろうが、欧米標準が世界標準となっただけのことであろう。Checkが普及している欧米にとって、電子振替に明細部分を含む必要性が薄かったし、当時の技術ではデータ容量を小さくしておくことも重要だったということで現状のような電子振替の構造になっているのだろう。今のハードの発達やXML技術など考えれば、日本発の改革として、銀行の決済システムを変えていく提案をしてもよいのではないだろうか。国際的には、日本のような電子振替が中心という国が多くはないだろうから、最初は日本だけの追加オプション・サービスの形で提供されるのかもしれない。いずれ世界全体としても、紙を郵送する小切手(check)という仕掛けから全て電子でやり取りするものに移っていくことになるのだろうから、できそこないの手直しになるばかりでなく、日本が世界に将来の方向性を実現して見せることになるのだろう。

 

200711

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