これで良いのかマスコミ

 

管政権が1月28日、一人ひとりに番号を割り当てる「社会保障・税の番号制度」(共通番号)の基本方針を決めたという記事が載った。

朝日新聞(2011年1月29日)によれば、“基本方針によると、共通番号として、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)を活用した新たな番号を創設。14年1月までに個人情報の保護を監視する「第三者機関」を設置する。同年6月をめどに新番号を割り当て、「ICカード」を国民に配る予定だ。番号の利用範囲は当面、年金、医療、福祉、介護などの社会保障分野と国と地方の税務分野とする。”ということである。

その日程は、今年6月に大綱をまとめ与野党協議をスタートする。その法案を秋の国会に提出し成立を図る。13年中にシステムの準備などを行い、14年にカードを発行・配布し15年1月から制度のスタートを目指し、そこから段階的拡大を図るというのだ。なんと悠長なスケジュールなのだろうか?「一人ひとりに番号を割り当てることが、ITをあたりまえに利用するためのインフラだ」という立場の私としては到底信じられない悠長さなのである。

 

しかし、小さくとも、遅くとも、とにかく前進だと思い見守ることにしたいのだが、もっと驚かされるのは朝日新聞の評価?(態度?というべきか、スタンスというべきか)である。1面で取り上げた後、5面に利点と課題として分析している。その課題の欄にはこう書いてある。

“ネット時代に個人情報の保護対策をどう作るのかも焦点だ。基本方針は「国民の利便性とプライバシー保護のバランスを多角的な視点で検討する」と明記したが、具体的な制度設計はこれから。番号制度のある米国では、情報の流用問題がおきている一方、共通番号が定着している北欧諸国では、個人所得をだれでも見ることができる。番号制度は、これまで浮かんでは消えてきたテーマ。プライバシーに敏感な日本人にどこまで根づくかどうかは分からない。”

この表現を単純に読むと情報流用問題が起こるなら止めておく方がよいのかとなってしまう。“米国では情報流用問題がおきている”とだけ書けばどれほど大きな問題なのかは分からない。“北欧諸国では、個人所得をだれでも見ることができる”という部分の意味は、他の人の個人所得を誰でも見ることができるということなのだろうか?信じられないが、これではそんな風に読める。さらに結論として、“プライバシーに敏感な日本人にどこまで根づくかどうかは分からない”とくれば、この導入はしない方がよいと述べているように思える。議論を深めるのではなく、葬ろうとしているのではないかと疑いたくなる。

 

さらに利点と課題を総合評価しているはずであろう中央の囲み部分には、政府は各種の利点を強調するが“盛りだくさんの個人情報が悪用される心配はないのか。番号の導入に幅広い理解を得るには課題も多い。”と書かれている。はじめてこのトピックスをこの記事で読んだらネガティブな反応しか返ってこないように思える。これでは誘導に近い。本当に国民的レベルで議論が深まらないと、またこの法案は葬られそうである。

 

この法案を単純に葬られないためには、朝日新聞のように利点は“医療・納税・・・手続き簡単”であり課題は“個人情報保護策は未定”というような対照のさせ方をしていてはだめなのだ。このIDによって少しくらい便利になるというより、今現在、国民一人ひとりに割り当てたID(共通番号)がないことにより国民がどれだけ損をしているか、どれだけのものを失っているかという議論をすべきではないか。

例えば

1.      “宙に浮いた年金問題”はこのIDがないからおこっている問題でもある。社会保険庁の職員がさぼっていたからというだけの問題ではないのである。増添さんも長妻さんもこの問題を気付いていなかったのか?

2.      行方不明の高齢者問題

全国で高齢者の所在不明が相次いでいる問題で、大阪市は25日、同市内に本籍地があり、戸籍上は生存している状態になっている120歳以上の高齢者が5125人いると発表した。

3.      多重債務者が暴力団と組んで養子縁組制度を多用

首都圏の男女約60人が養子縁組を197回にわたって繰り返し、パスポートの不正取得にかかわったり、多重債務者が性を変えて借金を重ねたりしていたとみられることが、神奈川県警への取材で分かった(読売新聞2010.11.1)

4.      所得捕捉の不完全さによる税負担の不公平

5.      徴税のプロセスには無駄が多すぎる。IDなしに電子化できない。

6.      何らか所得再分配的手段を講じようとした時の事務コストの高さ

定額給付金配布のための事務コストが850億円という報道があった。子供手当を配布する事務コストはどうだろうか?

IDがあることにより、現在問題になっていることの多くを解消できるし、低コストで同じことができるようになる。政府サービスや社会保障を減らしていくことが小さな政府の実現ではない。同じことをやっても小さなコストですめば小さな政府の実現ともいえる。意図的に葬ろうとしている方々には何を言っても無駄だが。

 

2011年2月 金井章男
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