南三陸町の戸籍データ消失と自治体クラウド

 日本巨大地震で被災した宮城県南三陸町で、戸籍の全データが津波で消失した可能性が高いそうである。(YOMIURI ONLINE 32033分配信) この記事によれば“南三陸町は戸籍を電子化して保存していたが、今回の地震で庁舎全体が壊滅状態となった。データは仙台法務局気仙沼支局(宮城県気仙沼市)でも保存していたが、同支局のシステムも津波で水没。他の法務局や自治体とデータを共有する仕組みはなく、同町の戸籍データは完全消滅した可能性が高くなった。今回の地震で、戸籍を管理する自治体と法務局両方のデータが消滅したのは同町だけだという。”ことである。もちろん戸籍の作り直しは試みられるであろうが、大変な作業でもあるし正しい情報が確保できるかは難しいと言わざるをえないだろう。当面、同町に本籍を置く人は戸籍を証明する手だてがなくなる。銀行口座などの相続には一般的に戸籍謄本・抄本が求められるが、消失すれば提出できず、旅券や免許証も発行できなくなる恐れがあるということになる。復興の障害になる可能性があるし、将来のトラブルの元になる可能性が大である。

 ここで改めてクローズアップされるのが共通IDの導入とデータベースの共有化・ネットワーク化であろう。目指すべき状態というのは

1.      国民一人ひとりに共通IDを付し、一つのデータべースとする。これにより、日本中のどこからでも戸籍に関する手続きもとれるようにし、戸籍抄本。謄本の発行を受けられるようにする。今回のようなことが起こったとしても戸籍という機能が失われることのないようにする。

2.      各自治体が各々システム作りをしていることによるコストの無駄は膨大なものであるはず。戸籍・住民票に始まり、ほとんど同じ機能を自治体ごとに作っている必要は全くないだろう。本当に自治体独自のサービスだけを別に付け加えるようにすべきであろう。

3.      システム作りにかかっているコストもさることながらバックアップ等の保守に関わるコストも膨大なはずである。今回の三陸町のようにバックアップとして不十分ということも起こる。日本全体としていくつかのデータセンターにデータを保持して、確実にデータを戻せるような体制を作るべきであろう。

4.      自治体サーバーのかなりの台数がセキュリティー上の問題を持っているという指摘がある。総務省所管の財団法人「地方自治情報センター」の内部資料によれば、”全国の自治体が管理するサーバーのうち、少なくとも193団体のサーバーが、サイバー攻撃を受けた場合、簡単に不正アクセスを許す恐れがある”そうだ。( 193自治体サーバー「危険」、不正アクセスの恐れ YOMIURI ONLINE 2010年3月7日)2008年度の調査した647団体の3割にあたる193団体が問題を抱えていて、うち70団体は特に大量の問題を抱えて「至急改善策が必要」とされたということであるから事態は重大である。調査後のアンケートでも、「予算がない」「たいしたことではない」などの理由で、今後も対策を取らないと回答していたということであるから、どれだけ改善が進んでいるか怪しいものである。セキュリティーの水準も自治体まかせにせず、一国としての水準を保たなければならない。

現在の状態は情報セキュリティーの3要素(注)のうち、完全性 (integrity) 可用性 (availability)の2つも怪しいということである。これを解消するには、自治体ごとに頑張って欲しいという掛声・命令では動いていかない。国全体としてのシステム作りが必要なのだ。日本という単位で共通化されるべきものを共通化し、無駄を排除し、システムの強さを作り出すものとして自治体クラウドというものが必要であろう。自治体クラウドには、どの自治体も共通で使う部分と各自治体がオプションとして選択的に使える部分が用意されていることになるだろう。各自治体が自ら構築しなければならないのは、各自治体の本当に固有のシステムだけで良いのだ。


注  情報セキュリティーの3要素