宙に浮いた年金記録をどうする !?

 

これまで年金の問題は、年金運用の失敗、人口構造の逆ピラミッド化による年金収支の悪化、年金の不払いが話題であった。これに全く対応できなかったダメ官僚組織である社会保険庁を解体し、実効ある年金制度にどうしたら変えられるかが、ずっと話題になってきた。年金を収集する機関と運用し支給する機関とは分けるべきだという議論や、国税庁に年金の収集はやらせればいいなど諸々の議論がなされてきた。社会保険庁というのは、どうにもならんという定評はあったのだが、約5000万件ものデータが未統合ということがあきらかになり、え〜、あきらめも想像も超えたひどさがクローズアップされたわけである。自民党は、この失敗の幕引きのために、社会保険庁を解体して非公務員型の公法人にするための「社会保険庁改革関連法案」と受給漏れの年金の時効を撤廃する「年金時効特例法案」を強行採決し、国会は大波乱となった。

 

社会保険庁は、97年に基礎年金番号を導入し、厚生年金、国民年金、共済年金など各制度毎にバラバラに運用されていたものを統一的に管理できるようにしようとした。従来は転職や結婚で違う年金に入り直していたので、いくつもの種類の年金記録をもっている人がいた。だから、各々の台帳で方式が違い、それにインプットミスも加わって統一するのが大変であったということである。しかし、それを何とかしようとして始めた制度なのだから、その大変さはわかっていたはずであるし、それだけの苦労をはらってでも何とかしなければならない。徐々に不一致を減らしてきた結果がこれなのだという説明もあるようだが、残っている数が5千万件となると言い訳にはなるまい。読売新聞の「社会保険庁が保有する年金記録」(2007.6.5)によれば、基礎年金番号に統合された記録が約1426万件、未統合の記録が約5095万件だそうである。10年もたって、三分の一について始末がついていないというのは、とんでもない数の多さである。しかも、照合が済むまで、元データや元台帳を失ってはならないのはこのような作業の大原則であるのに、記録の出し先の地方自治体に元データを残しておけという指示もできていない。まじめに、記録を調査して、つめようという意識もなかったのではと疑いたくなる。これだけの照合エラーがあれば、元データが全て移動できたのかも怪しい。宙に浮いたデータだけでなく、永遠に消えてしまったデータさえもあるのではないかと疑ってもおかしくない。

 

一方、民主党を始めとする野党が、自民党に対する攻めどころと詰め寄ろうとするのは良いのだが、どうも無責任な発言が気になる。「政府に責任がある。社会保険庁に責任がある」などの言質をとることに血道をあげられても困る。責任をとってもらう範囲を決めるのは必要だが、本当の具体策を議論してもらわなければならない。こんな時には必ずひと儲けしようという輩がでてくる。文句をいってきた人間に、よく調べもせずに払うわけにいかないのは当然である。クレイムを言ってくる相手にどんどん払っていったら、5千万件を消しこんでいって全部消し終わっても、たくさんのクレイム、それも正当なクレイムがたくさん残っていたということになりかねない。遠い昔の領収書が残っているわけがないというのも現実であるし、それなら代わりになりうるものは具体的にどのようなものなのかを議論することであろう。また、ここまでの統合できた記録で、国民一人一人が、年々いくらずつ納めたことになっていて、現状のデータから計算される将来の支給予定額を全民に示して自分の年金記録に不審な点がないかセルフチェックさせることが重要である。現状では、自らアクションをとらないかぎり、そういった最低限必要なデータも手に入らないのである。(ちなみに、米国では、ソーシャル・セキュリティー・ナンバーを基準にして毎年、そのようなアウトプットが郵送されている。)

 

国民年金なぞ、そもそも払っていない奴がたくさんいて、払っても支給が怪しいから、更に払われなくなるという悪循環の繰り返しとなっている。人口構成の影響の前に、払っていない人間からの集金対策がまったくできていないから、我も我もと払わない輩が増えるということが問題のはじまりである。NHKの支払いも同じことで、モラルは下がるばかりである。今回のおそまつが、国民の政府に対する信頼を壊滅させ、モラルの崩壊にとどめをさしそうである。

 

<追補1>

もう一つ不思議なのが、このような記事である。------------具体的な作業は、社会保険庁のコンピューター上で、受給者らの「氏名」「生年月日」「性別」の3条件に合う納付記録があるかどうかを突き合わせることになる。納付記録と現在の年金加入者・受給者の情報は、別々のプログラムで管理されている。この二つのプログラムを結びつける新しいソフトウェアの開発が必要になる。「ソフトさえできれば、3条件がそろっているデータの照合作業はコンピューターですぐに終わる」(厚生労働省幹部)という。ソフト開発は当初、約15か月かかるとされた。しかし、阿倍首相が「1年以内に調査を完了する」と明言したことから、社保庁がソフト開発業者と調整を進めた結果、「1年以内でソフトを完成させるめどがたった」(自民党筋)という。(読売新聞2007.6.6----------------この突き合わせのプログラムを作らずにどうやって突き合わせをしていたのだろうか?この照合をやってマッチできなかった結果が、約5000万件の未統合データなのだろうと私はおもった。それが普通のシステムを知っている人間の感覚ではないだろうか。それに、自治体の台帳を処分したということで問題になっているが、照合が完成し移行の正しさを検証できた単位ごとに廃棄処分を決定していくはずのものだと思うのだが、チェックという考えかたが全く入っていなかったのだろうか。う〜ん、どういう作業計画でやっていたんだろう。サッパリわからん!

<追補2>

その後も、社会保険庁の作業のいいかげんさを明らかにするような事実が公表されている。一つは、6月6日の衆院厚生労働委員会で、柳沢厚労相が明らかにしたもので上述の約5000万件とは別に、コンピューター入力されなかった手書きの旧台帳分が存在するということである。1954年3月までに勤めを辞めた人が厚生年金に加入した記録であり、おおむね現在70歳より上の人の記録と見られるという。オンライン化する過程で、データが膨大になることを理由に入力されず、マイクロフィルム化されて倉庫に保管されているそうである。(読売新聞2007年6月7日)第二に、社会保険庁がデータの抜き取り検査をした結果が、また惨憺たるものであった。台帳のマイクロフィルムにある三千件の年金記録をサンプルとして抽出し、コンピューター上の記録と照合した結果、入力洩れはなかったが、4件の誤りがみつかり、どれも納付期間の誤りであったという。比率では0.133%だそうである。(日経新聞2007年6月12日)決して低いとは数字とは言えまい。
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