アメリカでの慣行(social security number)

 

米国にはsocial security number(以下SSNと略称する。)があり、原則として全国民がこの番号を持っている。この番号は税金と年金等の社会保障に使われている。以下、その使われ方の概略を書いてみる。

 

1.      所得を得る活動にはSSNが必要。どこかの会社に雇用されるとしたら、SSNを渡す必要がある。雇用者側はこの個人番号に紐づけて給与を払い、所得税及びSOCIAL SECURITY TAX(=社会保障税 これが年金に対応する控除)の源泉徴収を行う。年末には被雇用者に対して源泉徴収書を発行するとともに、Social Security Officeに対して源泉徴収書のデータを送付する。

2.      所得を得る活動にはSSNが必要。例えば、銀行に利子がつく口座を開設しようとしたらSSNを申込書に書かなければいけない。SSNですべての所得を補足しようという仕掛けになっている。

3.      国民全員が確定申告を行う。この時に1の原泉徴収書を添付しSSNを書き込んだ申告書を連邦と州に対して行う。通常Tax Returnと呼ばれていて、おおむね払い過ぎ状態になっているから税金が還付される。支払いはIRS(内国歳入庁)から確定申告書の住所にCheckが郵送されてくることにより行われる。

4.      上記の確定申告のプロセスで扶養者控除をとるには、被扶養者のSSNが必要となるので子供が生まれれば直ちにSSNを取得することになる。

5.      従って、産まれたらSSNを取得するし、働くにも税務申告にもSSNが必要となるので普通のアメリカ人は皆SSNカードという紙カードを持っている。まだICカード化されていないが、全員が持っているというところがミソである。

6.      外国人も働いて所得を得るにはこのSSNを取得しなければならない。不法入国者や労働許可ビザを持たない者はSSNを得ることができない。

7.      Social Security Administration(社会保障局)から年一度、年間の対象となった所得額・社会保障控除額と年金支給見込み額等を記述したお知らせが送られてくる。

 

大きな違いとして感じるのは、国民全員が確定申告をすることである。給与から源泉で差し引かれて受け取っているということは、税を予定額で先払いしていることであり、確定申告は所得やその控除額などを最終的に確定させ払うべき額とすでに納付済みの金額との差を返してもらうということであり、確定額が支払済み額よりおおきければ支払いがひつようである。日本のサラリーマンの多くは、年末調整で会社にこの手続きをやってもらっている。金も税務署から返してもらう代わりに、会社に調整分を返してもらっているわけで給与振り込み口座に振り込まれてしまう。どうも税に向きあうことをしないから国家への向き合いかたも下手で、会社にとりこまれた生活を送ってしまうことになるように思える。程度の差こそあれ、アメリカ人はみなTax Returnの季節にはいかに税金をセーブするかを一所懸命考えている。「脱税ではなく減税」だと特に金持ちが税務弁護士や会計士のアドバイスを受けて税金を少しでも減らそうとする話は良く聞く話である。

 

もう一つは、6の年金に関するお知らせが届けられている点である。これにより、いくら自分の所得から差っ引かれていて雇用者がそれに会社負担分をいくらマッチしてくれたのか、自分が将来のどの時点かでいくらの年金がもらえそうなのかを見ることができる。今回の日本でおこった標準報酬月額の誤魔化しなどは、すぐにチェックされバレそうだからおこりにくいだろうと思える。もちろんこのような犯罪的行為は行われてはならないことである。しかし、標準報酬月額を減らして雇用主の資金繰りを助けて自分も困らず、遠い将来に年金が思ったより少なかったくらいにしか気づかないと思えば弱い人間はその誘惑にかられるかもしれない。そもそも年金など自分で金を貯めればよいのである。それを年金という制度を作り政府に預けておいて何の管理もせずに、お上のやることだから大丈夫と思っているほうがおかしいのである。かく言う自分も、そのような感覚でしかなかったのであるが、もっと賢い方々はたくさんおられると思うし、アメリカの年金制度について調べた方々もたくさんいたのではないかと思うのだが何故気がつかなかったのだろうか? 戦前の政府による言論弾圧や戦争に突入させた政治ということに対する反発が単に雰囲気的・ヒステリー的なもので終わり、本当にどう向き合ってどうコントロールするかという地道な部分が欠けてしまっているように思える。社会を構成する以上、政府というものは必要であるし、政府をコントロール・チェックすることが必要である。そのためには情報のフィードバックが必要である。

 

(金井章男2009年5月)

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