分かれていて不便ではないのか?

(分断されたデータベース)

 

 アメリカでは、州を移ったら自動車免許を取りなおさなければいけないと聞いて驚かないだろうか?他州の免許を持っていれば実技は免除だし、筆記試験そのものは大して難しいわけではないからそれほど大問題ではない。考えられるのは、州ごとに法律が違うから制限速度や年齢制限が異なったりしている部分があるのが理由といえば理由だが大差はない。自動車免許くらい統一すればいいじゃないかと思わないだろうか? なによりも面倒である。(注1)

 

 しかしながら日本にも似たような例がたくさんある。私は自転車を盗まれたことがあり、交番に届けにいった。そこで登録について尋ねられ、買った時に世田谷で届けているというとお巡りさんの顔色が変わった。世田谷から千葉市に転居した時点で再登録していなければいけなかったらしい。ほとんどお説教されているような気がした。一応、世田谷の方に問い合わせてくれることにはなったが時間が何日かかかると言われた。たぶん、この自転車の登録データベースは、市町村の警察に分かれたままで統合されていないのである。引っ越したら届けなおす方が常識だと思っている人の方が多いのだろうか。

 

 第二に、日本の自動車免許でも全国ベースになっているわけではない。さすがに、都道府県を移っても免許取り直しにはならないが、免許の更新は都道府県ごとになっている。他府県の陸運局でも手続きできないことはないのだが、千葉県在住の私は、東京で更新しようとしたら、千葉県発行の印紙を用意するなどややこしい準備が必要なのである。

 

 第三に、戸籍や住民票も市区町村の単位を超えないデータベースになっているようだ。戸籍は日本国民を把握する仕掛けであり、誕生や婚姻を届け出る。地域ごとに基準が違うわけではないし、違うことが許されてもまずいであろう。全国一律の基準のはずである。これが、市町村ごとにデータベースが分かれているので、戸籍謄本や抄本が必要になれば、戸籍のある市区町村にいくか、時間があれば郵送で手続きしてもらうことになる。急いでいる時には本当にたいへんである。住民票も地域ごとに違っていいものでもなさそうだ。引っ越しをしたら、転出を届け、新しい住所の自治体に転入を届けなければならない。歴史的に市区町村ごとに別々に始まったから、そのまま続いているにすぎないのではないだろうか。

 

 第四に救急医療の仕組みも分断されている。私は、スポーツ中に脳梗塞となり救急車をおねがいした。症状は軽かったので良く覚えているのだが、救急車では受け入れ先を見つけるために次々と電話をかけ随分時間を浪費した。おまけに私の住んでいるところは千葉市の端で、茂原市の方が近いのに千葉市の真ん中に向かって走って行った。行政区域で救急車の行先は限定されてしまうようなのだが馬鹿馬鹿しいかぎりである。それに、いちいち電話をしなくても何処に急患を運ぶべきかわかるようなデータベースが用意されていて医師や病室等を総合した最新の空き状況がリアルタイムにわかるようになっている必要がある。行政区域の線引きを超えたデータベースにして、その時点で最も適切な医療サービスを受けられる病院に搬送できるようにしなければ、助かる患者も助からないし、車椅子の患者や寝たきりの患者を作ってしまう結果になる。

 

 第五に、地盤のボーリング・データがボーリング会社の所有物となり共有されていないことである。ボーリング・データは、ボーリングを頼んだ土地オーナーの物でもなければ、ゼネコンの物でもなく、ボーリング会社のものになっている。地面の下はボーリングによってしか見ることができないし、全体の土地から考えたらほんの小さなサンプルから全体を推定しているのである。日本のように地震の多い国では、地盤の状況をより良く把握することが重要であり、すこしでも多くの周辺を含めたデータを利用することにより、より良く地盤を知ることが可能になる。データを誰にでも共有できるようにすることによって、次に造る建造物のために活かすことができる。等々

 

このように分断されていることによる弊害が出ている例はたくさんある。 一方で、世界は国境を越えて原材料や商品が往来する時代に入っている。EU(欧州連合)はREACHRegistrationAuthorization and Restriction of Chemicals)を定めて危険科学物質を規制しようとしている、これはEU域内の人の健康や環境の保護のための法律である。生産者・輸入者は生産品・輸入品についてそれに含まれる全化学物質(1トン/年以上)の申請・登録を欧州化学物質庁に行わなければならない。日本からEUへ輸出している企業は、自らの製品内に含まれる化学物質をその原料段階(国内品のこともあれば輸入品のこともある)から調べ上げて報告できなければ輸出ができなくなるということなのである。自社内で生産が完結している企業などほとんどないであろうから、企業を超え、国境を越えた形でデータが提供され、集約される仕組みがうまく作れなければこのような要請に対処するのはコストがかかりすぎて大変なことになる。

 

 これは情報インフラという制度設計の問題なのである。データベースは一元的に統合されることによって、バラバラのまま分断されたデータでは実現しようもなかったことが実現できる可能性もでてくるし、全体コストも安くなる。大きく将来を見れば、世界とのつながりまで考慮しなければいけない時代に入ってきているのである。まず、せめて日本の中は一つに統合化され整備されている必要がある。地方自治を促進していくことは国という単位が政治・経済的決定を行うのに大きすぎるから必要なのである。ただ、地方自治・地方自治と叫んで何でも地方に任せて良いものでもないし、地方基準を作って良いものでもない。統一基準で行わなければならないものはたくさんあるし、何よりもばらばらでやってはコストがかかってしかたがない。今、多くのデータベースが地方ごとなどに分断されているのは歴史的にシステムの容量が小さかったことや、人間の動きが少なかった時代に作られてきたものだからである。想像してみていただきたい。今、白紙から制度設計をしろと言われた人は誰も住民票のデータを市区町村ごとには作りはしないだろう。また、日本の中でばらばらになっていて、それに慣れきっている日本人には、世界レベルの標準化や統合に向けた思考やエネルギーがわきにくい。まずは自国の情報インフラを整備・統合することが国内の行政・産業の全体を効率化しコストをさげることにも貢献する。ひいては、世界市民としての貢献を果たしていく道にも通じることである。

(金井章男 2009年4月)

 

注1.実は弁護士免許も公認会計士免許も州ごとなのである。州兵さえも持っている。ロサンゼルス暴動の時に動員されたのは州兵なのである。元々州は国だったわけで、UNITEED STATES OF AMERICAは州の集まりの国というわけであるから、これをさすがアメリカでは自治が行き届いていると感心する人もいるかと思う。しかし、海軍・空軍はFEDERALといわれる連邦単位である。有名なFBIは州を超える犯罪のために作られているし、日銀に当たるFEDERAL RESERVE BANKもある。つまり、外交だとか一国としてまとまって対応しなければいけない部分については連邦に任せることになっているのである。

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